直線距離にして4500kmも離れた場所にあるブータン。
訪れたこともなく、知人がいるわけでもないこの小国の映像にふれると
なんとも言えない既視感が胸の奥に広がっていく。
それは民族衣装だったり、人々の顔つきだったり
おそらく同じように感じる人も多いと思うが、
古き昭和の懐かしさを思い起こさせる何かが、ブータンにはあるのだろう。
私のなかで、もっともブータンを身近に感じたのは、
東日本大震災のあと、国王が王妃を連れ国賓として日本を訪れたときだ。
衆議院本会議場での国王の演説も心を打つ内容だったが、
慰問で訪れた福島県の小学生の前で話された龍の話が
強く心に残っている。
日本国際フォーラム副理事長 平林博一氏が記した国王の話の一部を以下に引用する。
「龍が存在すると思っている人は手を挙げて下さい。ありがとう。
では、龍の存在を信じない人は?ありがとう。私は見たことがあります。(中略)
龍は私たち一人一人の中に存在します。ブータンの子供たちには、
自分の龍を養いなさい、管理しなさいと言っています。
私たちの中に、人格という龍が住んでいるのです。
年をとって経験を積むとその龍も大きく、強くなっていく。
大事なことは、自分の感情とか、湧いてくるものをコントロールすることです。」
もう薹(とう)が立ちすぎた年齢の私ではあるが、
この龍の話は、薄汚れてしまった心の奥に届き、響かせる何かがあった。
そうか。長いこと忘れていたけれど、私の中にも眠っていた龍がいたのだ。
残念なことに、年を取って経験を積んだとしても、龍が美しく大きく成長するとは限らない。
むしろ醜悪な姿で成長してしまい、空を飛ぶことすらやめてしまった龍もいるだろう。
感情のコントロールはいくつになっても難しい。
突然湧き出る怒りを抑えられなくなることは、
むしろ年を重ねたときのほうが、強くなる場合もある。
それでも、龍はいつか美しい姿で空を飛びたいと願っている。
きっと願っているはずだと私は思う。
そのために必要なものは何か。
答えは自分の中にあるはず。どうするかは自分次第なのだ。
Parker_WestによるPixabayからの画像