現代は「セラピー」にあふれている。
文明が発達し、人々の暮らしは格段に便利に、快適になったはずなのに、
何か満たされぬ想いは、ますます大きくなっていく。

そんな人々の得体のしれぬ不安を解消するために、香り・音楽・運動・カウンセリングetc.、
さまざまなセラピーが存在している。
例えば、疲れた時のマッサージや、好きな音楽を聴く、
親しい人との他愛もないおしゃべり・・などというのも、セラピーといえるかもしれない。

ここでご紹介するアニマルセラピーも、そうした一連のセラピーの中の一つだ。
犬で実施するセラピーが多いため、ドッグセラピーという言葉で耳にされた方もいるだろう。
筆者のアニマルセラピー像は、病院や高齢者施設などで、
患者や入居者の方々が動物たちをなでて和んでいるイメージだ。
そうしたセラピー体験の後は、いろいろな良い効果がもたらされるという話も聞いている。

本当に、そんな短い時間に動物と接点を持つだけで、人は癒されるのだろうか?
友人の1人が、長年にわたりアニマルセラピーの啓蒙活動をしている。
実際の現場をみてみたい。そう思い、友人を通じて関係各所から見学の許可をいただけた。

今回アニマルセラピー活動が行われるのは、杉並区にある高齢者施設の浴風園である。
都内の私鉄駅から徒歩圏内にある浴風園は、広大な敷地の中に、
病院のほか、その他の福祉施設が立ち並ぶ中にある。

まるで大学のキャンパスのような趣だ

 
指定された集合時間より、だいぶ早めに到着したのだが、
すでに半分近くのスタッフがもろもろの準備に入っていた。
今回見学させていただいたのは、公益社団法人 日本動物病院協会が主催するアニマルセラピーだ。
人と動物のふれあい活動(CAPP)として、
全国各地の病院・高齢者施設・学校などで、様々なセラピーやプログラムを実施。
会員動物病院やボランティア(飼い主)の協力のもと、
動物のもつ温もりや優しさにふれる活動を推進している。

動物たちの心身両面の健康状態には特に注意を払う。この活動での大きな特徴の一つだ。
例えば、セラピーの開始前には、参加する動物たちのヘルスチェックが必ず行われる。
当日参加している動物専門看護師から、体調がいまひとつと判断されたときは、
すでに会場に来ている場合であっても、控えで待機となる。
動物ファーストの考え方が徹底されているのだ。

ちなみに、参加する前の24時間以内のシャンプーがルールとのこと。
友人からその説明を受けたとき、
「えっと昨夜はお風呂に入ったっけ?あ、今朝シャワー浴びてきた」と慌ててしまった。
あとから人間は対象外と聞き、きまり悪さを覚えたのはここだけの話である。
 

ヘルスチェックのあとは、施設内の会議室をお借りしてのスタッフミーティングがある。
スタッフは一目でそうとわかるお揃いのユニフォームを着用している。
本日は、スタッフが20数名、犬11頭+猫1匹、および私を含めて見学者が3名となっている。
意外だったのは、人のみで参加している方が10名近くいたことだ。
実際にこういった催しに参加してみるとわかるが、プログラムをスムーズに進行させるためには、
こうした人のみボランティアの力も欠かせない。

今回実施するアニマルセラピーは45分。
動物たちと直接ふれあう時間を設けるのはもちろんだが、
セラピーを受ける参加者を飽きさせない、工夫を凝らしたプログラムになっている。
それだけに、細かな事前の打ち合わせが必要となってくる。

さて、人間たちが打ち合わせをしている間、主役の動物たちはどこにいるのだろうか。
実は飼い主の足元でおとなしくじっと待っているのである。
あまりにも風景に同化してしまってわかりにくいが、すぐ上の写真でも2頭ほど写りこんでいるがおわかりになるだろうか。
 
 
 

ゴールデン・レトリバーのジュリアちゃん お祭り好きである

こちらは、入り口近くで静かに打ち合わせが終わるのを待つゴールデン・レトリバー。
飼い主に甘えたしぐさを幾度となくみせていたが、
終始おだやかでじっと打ち合わせが終わるのを待っていた。
ちなみに、こうした動物同伴の着席する打ち合わせでは、
動物同士が近くで隣り合わないように配慮されている。
 
 
 
 

セラピードッグといえば、ゴールデン・レトリバーをイメージする人は意外と多いかもしれない。
確かに人と接することを好む犬種なので向いているといえるだろう。
しかし長年経験のあるスタッフによると、犬種としての向き不向きは特になく(闘犬などは別としても)、
個々の動物の素質によるものが大きいとのこと。

考えてみれば、ヒトも同じ。いろんな人がいて、向き不向きがそれぞれある。
それって、当たり前のことなのかもしれない。
  
 
 
 

打ち合わせが終わると、いよいよセラピーのプログラムが始まる。
スタッフ(飼い主)と動物が、大会議室へ続く入り口の裏側でスタンバイ。
他のサポートスタッフもそれに続く。

これから施設の参加者が待つ部屋で入場していくわけだが、全く関係のない私でも緊張でドキドキしてくる。
カメラのチェックをしながら、ふと前を向くと、
ちいさなちいさなロングコートチワワがじっとこちらを見ている。
先頭きって入場していく彼女は1歳になったばかりだが、すでに大人。
「ほら、がんばらないと」と、私にエールを送る。
こんな瞳でみられたら、臆しているわけにはいかない。
 
ワタクシもがんばらないと。
 

浴衣がお似合い。ロングコートチワワのメグちゃん

 
 
いよいよ入場だ。入場の順番は、身体の小さい子から、だんだん大きくなっていく。
なんだかブレーメンの音楽隊みたいで、ちょっと楽しい。
きっと、参加してくださった方々も同じように感じたのではないだろうか。

スタッフリーダーの司会のもと、規律正しい入場行進が続く

  
 
今回の高齢者施設の参加者は、比較的お元気な方が多いという印象。
始まってまだ5分ほどだが、軽い興奮とともに、すでにみな笑顔。

後ろをあるくのは、グレート・ピレニーズのラテ君(左)とボーダー・コリーのカイト君(右)




入場のあとは、自己紹介タイムとなる。小さな子たちは、飼い主さんに抱っこされたままでの紹介。
首にはみなおそろいのスカーフを巻く。
今回、トイプードルは2頭が参加。
中央はシエル君。左側にいて、シエル君をみているのは、エイミーちゃん。
同じ犬種でも、ずいぶん違う雰囲気。詳しくない私は、違う犬種だと思っていた。
 
しかしみな実によく訓練されている。
打ち合わせから、セラピーが終わるまで2時間前後、
ただの一度もわんともにゃんとも、鳴き声を耳にしなかったことに驚く。

2頭のトイプードルの間にいるのが、ミニチュア・シュナウザーのペコちゃん

 
 
自己紹介が終わると、直接動物たちをふれあう「ふれあい活動」の時間だ。
参加者は椅子に座ったまま、動物やスタッフがランダムに近寄り、交流を持つ。
思わず手をだして、動物たちを優しくなでる方も多いが、ためらいのある方には、
すかさず飼い主やサポートスタッフが無理のない会話と笑顔で自然なふれあいの場を作っていく。
このふれあいタイムこそが、アニマルセラピーの真骨頂といえる。
 
セラピーに参加する動物は圧倒的に犬が多く、猫がそれに続く。
しかし時には「馬」のような大きな動物もセラピーアニマルとして活躍することもあるという。
会場には入れない、直接触れ合うというのもなかなか難しい動物だが、
普段屋内で運動も制限されるような方々にとって、
生き生きと駆け回る馬を離れた場所から眺めるだけでも、楽しんでいただけることがあるようだ。
日常にない、わくわくするような刺激というのも、セラピーの役割の一つと言えるだろう。

今回参加した動物で最も体の大きいグレート・ピレニーズ犬は、
入場するだけでも場内から静かな歓声があがった。
ふわふわの真っ白い毛をもち、小柄な参加者と同じくらいの大きさの彼が近寄るだけで、
ついつい手を伸ばしたくなるような魅力がある。

グレート・ピレニーズはヨーロッパ山岳地帯の牧羊犬として活躍してきた

 
 
 
もちろん、小型犬も人気がある。
スタッフのサポートのもと、直接膝の上にのせ抱っこできるので、より濃密な接触が可能。
手や皮膚を通じてのぬくもりや触覚への刺激は、
いわゆる幸せホルモン(オキシトシンなど)の分泌を促すと言われている。

トイプードルのエイミーちゃん、じっと目をみつめてのご挨拶

 
 
全身真っ黒な中型犬の ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグとすっかり友達になってしまったこちらの男性。
耳慣れない犬種だが、オバマ元大統領が飼っていたことで一時話題になったことがある。
子供や動物は、大人の警戒心のハードルを下げる緩衝剤となる。
初対面でカメラを向ける私に対してのこの笑顔が、それを証明している。

ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグのルーアちゃん ルーツはポルトガル原産の漁用犬だ 

 
 
 
 
こうしたセラピーに参加している動物たちは、このような場をどう思っているのだろうか。
直接インタビューをすることはできないが、今回直接セラピーの現場を見学させていただく中で、
自分たちもチームの一員として参加しているという意思のようなものを感じることがあった。
下の写真など、そういったプロ意識のようなものが見て取れないだろうか。
 

イングリッシュ・コッカー・スパニエル アミー ちゃん


 
「アニマルセラピーでふれあう コンパニオンアニマルと分け合う大切なモノ 後編」
に続く。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です